
「生成AIを使った広告を始めたい」「制作会社からAIを使った提案を受けた」。そんなとき社内で必ず出てくるのが、「うちはAIを使っていいのか」「何を確認すればいいのか」という問いです。宣伝は進めたい、法務は権利が気になる、ブランド部門はトーンが心配——基準がないままだと、案件ごとに同じ議論をやり直すことになります。
生成AI広告のガイドラインは、この議論を毎回ゼロから始めないための社内ルールです。ただし作るべきなのは「AIを使うか、使わないか」を決める文書ではなく、どこまで使い、誰が何を確認し、委託先に何を求めるかを決める文書です。制作を外注する広告主にとっては、そのまま委託先との共通言語になります。
26℃(株式会社ニジュウロクド)は、フルAIで制作したCMを地上波で放映した実績がある制作会社です。この記事では制作を受ける側の立場から、外注の前に社内ガイドラインへ入れておきたい6つの項目と、作ったあとの運用を整理します。
結論から先に
- 生成AI広告のガイドラインは「使う・使わない」を決める文書ではない。どこまで使い、誰が確認し、委託先に何を求めるかを決める社内ルール
- 入れる項目は使う範囲・権利の基準・人物表現・承認フロー・表記の方針・委託先の条件の6つ。外注するなら委託先との共通言語になる
- AI使用の表記は媒体・プラットフォーム・国によって規定が異なり、変更も多い。結論ではなく「誰が最新の規定を確認し、どう説明するか」を書く
- 最初は1枚でよい。案件ごとに見直し、更新した版を委託先にも共有する
生成AI広告のガイドラインとは
生成AI広告のガイドラインとは、自社の広告・宣伝物に生成AIを使うときの範囲、確認の手順、判断の責任者をまとめた社内ルールです。 誰が担当しても同じ基準で判断できるようにすることが目的です。
全社向けの生成AI利用ルールが社内業務での利用を想定したものなら、広告にはそのまま当てはまりません。広告は社外に出て、不特定多数の目に触れるものだからです。人物の表現、権利の帰属、AI使用の表記、委託先との取り決めを別に決めておく必要があります。基準が文書になっていれば、制作会社も最初からそれに合わせて工程を組めます。
この記事は実務上の整理であり、個別案件の法的判断ではありません。具体的な案件については、必ず自社の法務部門または専門家にご確認ください。
なぜ外注する前に作っておくべきか
ガイドラインがないまま外注すると、起きやすいことが3つあります。
案件ごとに判断がぶれる。 宣伝部で通った企画が、公開直前にブランド部門の確認でひっくり返る。方針そのものが覆れば、企画からやり直しです。
委託先に何を求めるかが決まらない。 基準がないと、制作会社の説明を「聞いて終わり」にするしかなく、複数の委託先を比べることもできません。
公開後に説明できない。 「権利は大丈夫か」と聞かれたとき、根拠が「制作会社が大丈夫だと言ったから」では弱いままです。自社の基準に照らして確認したと言える状態を作ることが、ガイドラインのいちばん実務的な効用です。
ガイドラインに入れる6つの項目
制作を受ける側から見て、発注前に決まっていると案件が進めやすい論点から逆算した6項目です。

1. 使ってよい範囲 ― どの媒体で、どの工程に使うか
「使う/使わない」の二択にせず、2つの軸で書くと運用しやすくなります。
- 媒体の軸:地上波・配信・SNSなど、どの出し先で使ってよいか。テレビCMなら放映前に媒体側の考査があります
- 工程の軸:すべて生成で作る(フルAI)か、一部のカットだけ(部分利用)か、絵コンテなど企画段階だけか
「企画段階の案出しは担当者判断、公開される制作物は承認フローを通す」のように分けておくと、現場が迷いません。フルAIで作る場合の工程はAI CM制作とは?実写CMとの違いと、制作の流れを工程で解説で解説しています。
2. 権利の確認基準 ― 何を、誰が確認するか
権利の論点は、入口・工程・出力・契約の4段階に分けると整理しやすくなります(詳しくは生成AI動画の著作権と商用利用)。ガイドラインに書くのは論点の解説ではなく、4段階のそれぞれを「誰が、何を根拠に確認するか」です。
3. 人物表現のルール ― 実在の誰かに似せない
実在の人物・ブランド・キャラクターを模倣しないことを明文化します。大事なのは、社内から出る依頼も対象にすることです。「あのタレントのような雰囲気で」という依頼が企画段階で出れば、制作側がどれだけ注意しても方向がずれます。
26℃では、演者はAIアバターとし、実在の人物・ブランド・キャラクターを模倣しない運用としています。AIアバターを出演者にするときのリスクはAIアバターを広告に使う5つのリスク|実在タレントとの違いと対策で整理しています。
4. 品質と承認のフロー ― 誰が最終判断するか
揉めやすいのは、誰が最終的に「出してよい」と判断するのかが曖昧なときです。承認の流れを、順番と担当ごとに書いておきます。

- 企画 — 使う範囲と人物表現を企画書に明記する
- 法務・ブランド確認 — 権利とトーンの方針を先に確認する
- 制作 — 委託先が制作し、途中経過を共有する
- 最終チェック — 委託先の品質チェック後、社内でも確認する
- 公開判断 — 1人に決めた最終承認者が判断する
ポイントは、法務・ブランドの確認を最後ではなく企画の直後に置くことです。方針が後からひっくり返ると、全体のやり直しになります。発注側の進め方はAI動画を発注するときの注意点でも扱っています。
5. 表記・説明の方針 ― AI使用をどう扱うか
AI使用を広告上で明示するか、問い合わせにどう説明するか。出稿先ごとに事情が違うため、次の章で決め方を整理します。
6. 委託先に求める条件 ― 何を満たせば任せられるか
外注する広告主にとっては、ここが中心です。社内で決めた基準を委託先が満たせるかを確かめる項目で、具体的には後の章で整理します。
AI使用の表記はどう決めるか
「AI使用」と表記すべきかは、多くの担当者が迷う点です。ただ、ここは媒体・プラットフォーム・国によって規定が異なり、変更も多いのが実情です。「表記する/しない」の結論だけを書いても、出稿先が変われば通用しなくなります。そこでガイドラインには、結論ではなく決め方を書いておきます。
| 決めること | ガイドラインに書く内容 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 出稿先の規定 | 誰が、いつ確認するか | 出稿のたびに、宣伝担当が最新の規定を確認する |
| 規定がない場合 | 自社の基本姿勢 | 明示するか、問い合わせ時に説明するかを決めておく |
| 問い合わせ対応 | 何を、誰が答えるか | どの工程にAIを使い、権利をどう確認したかを窓口が答える |
| 記録の保管 | 何を残すか | 使用したツール・工程・確認者を案件ごとに記録する |
表記の有無と同じくらい大事なのが、どの工程でAIを使い、誰が何を確認したかを、聞かれたときに説明できるかです。特定の媒体・国の規定への当てはめなど、個別の判断は専門家にご確認ください。
委託先に確認すること ― 26℃の場合
項目6を確認事項に落とすと次のとおりです。右端は26℃の場合の答えです。
| 確認すること | なぜ入れるか | 26℃の場合 |
|---|---|---|
| 預けたデータを学習に使わないか | 商品画像や資料が外部のモデルに残るのを防ぐ | 商用利用・データ非学習を前提とした環境で制作します |
| 制作工程を開示できるか | 問い合わせへの説明の根拠になる | キャラ設計→世界観→合成→最終カットまで、制作画面のまま全工程を開示。使用ツールと工程はトレース記録に残します |
| 納品後の権利はどこに行くか | 期間や媒体の制限があると後から使えない | 完全買い切りで、著作権・肖像権とも譲渡します |
| 最終チェックは誰がするか | 出力をそのまま受け取ると社内確認の負担が増える | AI出力をそのまま納品せず、日本国内のスタッフが最終品質チェックを行います |
大切なのは、確認を「制作会社がどう言ったか」で終わらせず、自社のガイドラインと突き合わせることです。その記録が、そのまま社内への説明材料になります。
制作会社を選ぶ段階の確認項目はAI CMが「気持ち悪い」と言われない作り方にまとめています。26℃のサービスはDIRECT FILM、制作物は制作実績でご覧いただけます。
作って終わりにしない運用
最初から完璧を目指すと、ガイドラインはいつまでも完成しません。小さく作り、案件ごとに更新するほうが現実的です。
最初は1枚でよい。 6項目について、いま決められることだけを書きます。決められない項目は「案件ごとに法務と相談」で十分です。
案件が終わるたびに見直す。 「判断に迷った点」「委託先から質問された点」を記録し、次の版に反映します。出稿先の規定が変わったとき、新しい媒体や国に出すとき、使う工程を広げるとき(企画段階のみ → 部分利用 → フルAI)も見直しのタイミングです。
版と日付を残し、委託先にも共有する。 更新したら最新版を委託先に渡しておきます。
よくある質問
Q. 生成AIを広告に使うとき、社内ガイドラインは必要ですか?
A. 外部に制作を委託するなら、作っておくことをおすすめします。基準がないと案件ごとに判断がぶれ、委託先に何を求めるかも決まらないためです。
Q. 生成AIで作った広告には「AI使用」の表記が必要ですか?
A. 媒体・プラットフォーム・国によって規定が異なり、変更も多いため、一律には言えません。出稿先ごとに最新の規定を確認したうえで、規定がない場合の自社方針と、問い合わせへの説明の仕方を決めておくのが実務的です。個別の判断は専門家にご確認ください。
Q. 全社の生成AI利用ルールがあれば、広告用は不要ですか?
A. 全社ルールが社内業務での利用を想定している場合、人物表現・権利の帰属・表記・委託先の条件といった広告特有の論点は別に補う必要があります。広告向けの章を足す形でも構いません。
Q. ガイドラインは誰が作ればよいですか?
A. 宣伝・法務・ブランドの3部門で作るのが現実的です。最初から3つの観点を入れておくと、公開直前に判断が覆るのを防げます。公開を判断する承認者も1人決めておきます。
Q. 作ったガイドラインは制作会社に共有すべきですか?
A. 共有することをおすすめします。基準が分かっていれば、制作会社は最初からそれに合わせて工程を組めます。
まとめ
生成AI広告のガイドラインは、「AIを使うか、使わないか」ではなく、どこまで使い、誰が何を確認し、委託先に何を求めるかを決める社内ルールです。6つの項目を押さえておけば、案件ごとの判断がぶれにくくなり、委託先との共通言語にもなります。作って終わりにせず、案件ごとに見直していくことも大切です。
26℃は、フルAIで制作したCMを地上波で放映した実績をもとに、AI映像制作サービス「DIRECT FILM」を提供しています。工程の全開示、日本国内での最終品質チェック、権利の完全買い切りまで含めて設計しています。
AI映像制作の進め方、品質管理の考え方、権利の扱いをまとめた資料をご用意しています。社内での検討・稟議にそのままお使いいただけます。
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執筆:26℃ 編集部
AI映像制作サービス「DIRECT FILM」を運営する株式会社ニジュウロクド(26℃)の編集チームです。制作現場で実際に用いている基準をもとに、AIクリエイティブの実務情報を発信しています。
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